第20回杉診サロン報告書（キャラクターをめぐる権利関係とその保護）

３月２日、弁護士の正田光孝氏に「キャラクターをめぐる権利関係とその保護」のテーマで講演していただきました。１．キャラクターとはなにか

 

（１）キャラクターとは

キャラクターとは、小説や漫画等に登場する架空の人物や動物等の姿態、要望、名称、役柄等の総称である。（知名度の向上により、顧客誘引力の発揮が期待できる）

（２）キャラクターの利用

人形、ぬいぐるみ、ストラップ、食器等（マグカップ等）漫画化、映像化（アニメ化、プロ―モーションビデオ等）

（３）キャラクターをめぐる権利関係（なみすけ等公共団体のマスコットの事例）

キャラクターデザインの公募（製作者~団体間） 公共団体による通常利用（刊行物、ＨＰ等） 商品化（自ら絵本、人形等を販売） 商品の制作・販売の許可 第三者による（不正）利用

（４）キャラクターに対する権利保護の重要性

自ら自由に利用することができる。 他人の利用をコントロールすることができる。 利用に関する許諾（自由に条件を付与） 不正利用に対する対抗手段（差止め、損害賠償請求等）●キャラクターの持つ顧客誘引力の独占的支配（自由にコントロールできる）

２．著作権の内容

（１）著作権等とは

「著作物」（法2条1項1号）　思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの。 「著作者」（法2条1項2号）著作物を創作する者●「著作権」とは、「著作者」が「著作物」に対して有する権利の総称（特別な手続きを経ずに、制作した時点で権利が発生する）

（２）著作権の体系

「著作者人格権」：著作者が自己の著作物につき有する人格的利益を対象とした権利

「同一性保持権」：著作物について、その意に反して変更、切除、その他の改変を受けない

「複製権」：（著作物を）有形的に再製する権利

「翻案権」：著作物を翻案して新たな著作物を創作する権利（例、翻訳、変形、映画化等）

３．創作者と団体の関係（ひこにゃん事件の事例（必ずしも正確でない部分あり））

（１）ひこにゃん事件の経過

彦根城築城400年祭にイベント会社がマスコットキャラクターデザインを公募した。 “ひこにゃん”のデザインの採用が決定された。 イベント会社と祭実行員会間で、著作権の買取契約が成立、著作権（財産権）移転。 実行委員会で、名称とその他性格を「肉好き」等の設定を追加した。 実行委員会は、祭りと“ひこにゃん”ＰＲのため、業者に商品化の許諾と、後ろ姿（3ﾎﾟｰｽﾞ）などの設定を追加していた。 創作者が、“ひこにゃん”の絵本を市側に無断で出版した。 イベント会社との契約は、実行委員会を彦根市が引継ぎ、契約期間も延長した。

（２）調停の申し立て（制作者が祭り終了後の“ひこにゃん”使用の制限を求めた。）

3枚の原画と異なる絵柄や、立体物商品（原画に拘らず）等が氾濫し、市が適切な著作権管理を怠っている。 創作者の意図していなかった性格付け（肉好き）が行われている。 祭りのためのキャラクターであり、祭り終了と共に実行委員会が消滅してしまった以降のキャラクター管理が問題。

（３）調停の成立

制作者の著作者人格権を認める。 商標権は市に、3種類のイラストの著作権は実行委員会にあることを認める。 市側は、3種類のイラスト以外の変形イラストを使用してはならない。 市側がイラストの使用を許可した業者名等の名簿を毎年制作者側に届ける。 創作者は、絵本に限って“ひこにゃん”のイラストを使用することができる。

４．創作者と団体の関係

（１）ひこにゃん事件の論点

公募の際に描かれた原画以外のポーズの絵柄を作成することの可否。→新たな創作部分が付加されていなければ「複製権」、いれば「翻案権」が必要。 公募段階で設定されていなかった後ろ姿を付け加えることの可否。→正面からでは明らかではない“尻尾”などを付け加えることは、「翻案権」が必要。 公募段階で設定されていなかった性格、背景を市側が設定することの可否。→市側は、自由に設定することができる。創作者は、同一性保持権（著作者人格権）を主張できない。 立体物を作成することの可否。　「翻案」として、「翻案権」が必要。 著作者の同一性保持権（著作者人格権）との関係はどうか。→翻案（例：立体化、後ろ姿（尻尾）の追加）は、原著作物の「改変」を伴う（新たな創作部分が加わる）

（２）創作者からデザインを譲り受ける際の注意事項

「著作権（財産権）」の譲渡を受ける。 著作権人格権（同一性保持権）不行使特約。 著作者であることの保証（本人確認）。 商標、意匠等登録がないことを確認。 内容（認められる行為の具体例）確認。⑥“キャラクター”に関する設定の引継。

５．団体によるキャラクター利用

（１）キャラクターの利用方法

具体例及び関連する著作権・刊行物、ＨＰ：複製権（ないし翻案権）・商品化（平面的：複製権（ないし翻案権）、立体的（翻案権））、アニメ化（翻案権） 関係者への使用許諾・団体が自ら製作（自らの著作権に基づく）・団体利用のために業者に制作委託制作する過程について利用許諾・第三者が自己のため制作、販売 利用許諾（ないし著作権譲渡）

（２）第三者の不正利用(可能性)について

事前の予防・商標（名前、図案等について）名前には、著作権の保護が及ばないので必要があれば積極的に登録したほうがよい。・意匠(デザインについて)新規性の要件等があり、早期の段階で使用する可能性あるものは形状の特定が必要。 事後的解決手段・商標、意匠登録をしており、それらの権利が侵害されている場合は商標権、意匠権に基づいて差止め、損害賠償請求、刑事告訴等。・著作権侵害は、著作権侵害に基づいて差止め、損害賠償請求、刑事告訴等。・不正競争防止法に基づいて差止め、損害賠償請求、刑事告訴等（要件として、周知性が必要）。・一般不法行為〔民法709条等〕による損賠償請求。 (ただし、差止めはみとめられていない)