第22回杉診サロン報告書 (事例に学ぶ中小企業の海外進出)
今回は、当診断士会の会員で、海外進出企業支援の経験が豊富な元山純一郎氏に「事例に学ぶ中小企業の海外進出」のテーマで講演していただきました。
1.中小企業を取巻く経営環境の変化
少子高齢化の到来 | (1) 総人口の減少(2010年の128百万人がピーク)
(2) 生産年齢(15~64歳)の減少(1995年の87百万人〃) |
経済不振は内需の不振
最近の円高 |
(1) 実質GDPの減少(2007年の523兆円がピーク)
(2) 生産拠点を国内に維持する困難性(円高、労働規制等) |
海外との取引 | (1) 貿易から投資の流れ(海外取引→現地での生産・販売へ)
(2) 海外直接投資の拡大(約20兆円) |
高級ブランド取引 | (1) 高級ブランド取引が黒字化をもたらす(フランス、イタリア、スイス等)
(2) 日本の軽工業の高級ブランド化の可能性 |
アジア所得水準の向上 | (1) 富裕層(投資可能資産100万ドル以上)の拡大
(2) BOP(年収3,000ドル以下)層の拡大(約28億人) |
2.海外展開が中小企業にもたらすインパクト
国際化への取り組み動機 | (1) 自社製品に自信があり、海外市場で販売したい
(2) 取引先の海外移転、コスト低減要請への対応 (3) 取引先に勧められた、国内販売の伸び悩み |
海外展開と中小企業の経営資源 | (1) 新製品の開発、グローバル化に対応しうる人材の獲得
(2) 海外生産の拡大、販売機能の強化 (3) 調達部品・原材料などの原価低減 (4) 開発・生産・販売各部門の連携強化 (5) ブランド力の強化 |
有望進出先
その理由 |
・中国、インド、ベトナム、タイ、アメリカが上位5カ国
・現地市場の成長性、安価な労働力、組み立てメーカーへの供給拠点、優秀な人材、他国のリスク分散の受皿等 |
有望進出先の課題 | (中国) 労働コストの向上、法制の運用が不透明等
(インド) インフラ未整備、他社との激しい競争等 (ベトナム) インフラの未整備、管理職層の人材確保難等 |
海外展開の取り組みにあたり取り組んだ内容 | (1) 海外市場の情報収集、海外マーケティングの強化
(2) 現地への販売チャネルの強化、 (3) 企画部門(海外業務処理・研究開発等)の増強 (4) 社員研修・訓練の強化、新製品開発活動の拡充 (5) 先端技術・設備の導入、生産性効率の向上⑥コスト削減 |
海外展開支援スキームとその利用実態 | (1) 国際化を検討する前に利用した機関
JETRO、商社、民間金融機関、その他の政府系機関、コンサル企業、中小企業基盤整備機構、政府系金融機関 (2) 実際に国際化を行う時に利用した機関 民間金融機関、コンサル企業、中小企業基盤整備機構、その他政府系金融機関、政府系金融機関、JETRO等 (3) 国際化支援機関の利用内容 セミナー等、窓口相談等の情報提供、展示会・商談会、 国際化による効果 売上増加、新市場・顧客の開拓、海外市場や海外ビジネスノウハウの蓄積、企業の認知度・イメージの向上等 |
海外展開における課題 | (輸出企業) 品質管理、信頼できるパートナーの確保、販路の確保・拡大、マーケティング、コスト管理、納期管理
(直接投資企業) 品質管理、販路の確保・拡大、マーケティング、コスト管理、人材確保・労務管理、投資費用の調達・資金繰り、法制度・会計制度及び行政手続等、信頼できるパートナーの確保等 |
3.バングラデッシュ人民共和国(日本面積の約40%、人口1.6億人)への進出事例
A社(製靴会社)
設立(1985年) 従業員(25人) (天然皮革婦人用靴) 判断の根拠: 経済合理性の追求 |
・2011年11月から試験生産、2012年5月から270名で本格生産(2001年から日本での生産停止、中国で生産)
・中国での経験がバングラでの工場立ち上げに役立った ・韓国人の靴職人2名を現地工場に配置、生産管理を実施 ・主要市場(日本国内、欧州、北米、アジア) ・新ブランドを立ち上げたい |
B社(金属加工会社)
設立(1959年) 資本金(1千万)、 従業員(20人) (バス、トラックブレーキ部品) 判断の根拠: 現地人社員への信頼性 |
・1993年バングラ工場建設に着手(タイ、ベトナムと比較)
・バングラ人のまじめさと日本企業の成功事例が決め手 ・バングラ人社員に対し、1年3か月の社員教育を実施 ・バングラ工場は270人を雇用、量産品を生産 ・安定した製品を安価で製造(国内・お客様窓口のみ) ・将来はタイで仕上げ工程を行い、デポを設け海外拠点化 |
C社(食品加工業者)
設立(1983年) 資本金(16.5億)、 従業員(1,320人) (もやしの販売) 判断の根拠: BOPビジネスへの進出 |
・もやし原料の緑豆の供給は、大部分が中国からの輸入
・バングラ全土で米作の農閑期に緑豆を栽培・日本へ輸出 ・合弁のパートナーはマイクロファイナンスで有名な銀行 ・合弁会社の利益はバングラ貧困層の福祉・奨学金に活用 ・現地の700~800農家に栽培委託、緑豆の選別作業に100人雇用(BOPビジネス)、価格上昇・供給・農薬リスク回避 ・企業の社会的責任(CSR)の発揮によるイメージ向上 |
4.まとめ
ケーススタディを通じてわかったことは、企業の海外進出には決まった正解がなく、それぞれのケースで自社の経営理念や事業戦略に照らして最も重要と思われる事項について慎重に検討を行い決めていることである。 |